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眩しい日差しに俯いた、そのまま目を閉じる。
どうせ障害物なんてない場所だ。
そう。
転んでも砂の上では、大した怪我だってしないだろう。
一片の雲の陰、鼓膜には五月蝿い蝉時雨れ。
風に運ばれた、強い潮の臭いが鼻をつく。
波打ち際、じりじりと侵食されてゆく自分の身体。
歩めば砂にめり込んで、侵食されてゆくだけのこの足も。
一片の雲間が失せ、強い日差しに面を上げて波間を見つけた。
単調に寄せて返す谺に、乳白色の身体を漂わせるそれ。
それは、死んでしまったらその亡骸を一片とて残さず水に還るというもの。
浜辺に残る自分の足跡を振り返れば、残る足跡が痕となって連なる。
人間は人間であるだけで、ただ彷徨いただ漂流することなど、到底出来ないものだけど。
僕は真に漂い浮遊する、それを見つめた。
強い日差しに目が眩むのも気にせず、飽きることなく漂うそれを見つめ、波打ち際に沈む己の足の
感触も忘れるほど、ただあれるものに引き込まれ。
そしてやがて、人間の自分と違う、その違いを見せ付けられる。
じりじりと沈みゆく両の足に、人間はただあるものに、なれない事を知る。
消えない自分、消せない自分、なくせない自我。
忌み嫌う感触すら忘れさせるほどの羨望と焦燥感。
だが僕は、そういうものになりたいのだと・・・。
ばしゃっ!
きゅっ!
ぺしゃりっ!
「この大馬鹿猿がっ!!」
榎木津の怒鳴り声が耳に痛いくらい響いたその音で覚醒した僕は、額にべしゃりと乗せられた冷た
いタオルを持ち上げる。
「・・・あれ?」
「あれもへったくれもあるかっ! 日差しで熱射病になるまで浜辺を歩いている猿はお前ぐらいだぞ
っっ!! その上誰がお前をここまで運んだと思っているんだ、この大大馬鹿猿がっっっ!!! 熱
で脳が融けてしまったらどうするんだ、このどこまでも猿がっ!!」
「まあまあ、榎さん。肉体労働は貴方の専門ですから」
それ以外に使いようのない男だといわんばかりにそう言って、京極堂は団扇で僕を扇いでいる。
小さな風が心地いい。
「クソッ! こんなときに木場シュウがいれば・・・っ!」
榎木津はそうぼやきながら僕の手にあったタオルを奪い、もう一度慰め程度に湿らせたタオルを額に
乗せた。
「とにかく寝てろ、熱が冷めるまで起き上がるな!! 分かったな、この大大大馬鹿猿がっっ!! 俺
はアイスクリンを買ってくるっっっ!!! あ〜あ、このお代は大大大大馬鹿猿にツケておくからなっ
っっ」
そう言ってそのままどかどか足音を立てながら出て行ってしまった。
その後ろ姿を、僕はきょとんと見送くっていると、京極堂が静かに向き直った。
「しかし関口君。榎さんの言うとおり、本当に溶けてしまわなくてよかったね」
静かに呟かれた言葉に、僕は頷く。
京極堂が団扇で僕を扇いだ。
優しい風。
妙に心地がいい。
しっとり濡れた前髪に、そっと触れられた。
冷たいその手が心地いい。
「ゆっくりお休み」
その心地よさに、僕は目を閉じた。
本当に、溶けてしまわなくてよかったよ。
ここにいてもよいのだと、僅かながらに思う瞬間。
2005.1.18up
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