天上の青



 青い空と、青い朝顔。

 季節は秋の昼下がり。

 類稀なる天上の青に、世の不思議を思う私。







「世の中に不思議な事はないのだよ、関口君」

 今目の前で起きている、それを見ても彼は自分の持論を曲げたりしない。

 京極堂は懐で腕を組んで、両の青を見つめる。

 秋の日の昼下がりに花開く、季節外れの朝顔。

 その朝顔の苗は、夏の日も花を楽しませてくれていた。

「でも、朝顔は朝しか開かないものだろう」

 私はそう言って居間に置かれた時計を振り返る。

 その時計の針は昼を二時ほど済んだ刻限を指している。

 朝顔が花開くのは、夏の朝のほんの僅かな時間だけ、なのに今は、昼下がりと言う時間。

 これは朝顔ではなく、朝顔は朝顔でも違う種類の昼顔と呼ばれるものではないだろうか?

「だから、朝顔の好きな時間に朝顔が開いたのさ」

 秋晴れの青空に朝顔の青が眩しく映える。

 朝の光に照らされるよりその青は鮮明だ。

 京極堂の呟きに納得せざるえない思いを感じるが、私はもう一度、その青を見た。

「ああ、それでもやっぱり……」

 私はその青に安堵の心を感じて笑みを浮かべる。

「この青は昼下がりに映える青だね、京極堂」

「仮にも文士たるもの、もう少し気の利いた表現はないのかね? 関口君」

 ひと通りいつもの皮肉を口にして懐に収めた手を伸ばし、青い朝顔の花を掌に乗せる。

「天上の青」

 ひと言呟いて空を見上げる。

 私もその言葉に空を見上げた。

 どこまでも青い空、その天上と同じ青。

「なんて名の、朝顔だろう……?」

 私は空を見上げたまま京極堂に訪ねた。

「花の名前は人間が勝手につけた称でしかない」

 花が狂い咲きする理屈が、この花の何処かにあるのかもしれない。

 知りたいようで、それを知りたくないような気もする。

 私は京極堂を窺った。

「……その名でよければ後で千鶴子に聞けばいいだろう、これは彼女の育てたものだ」

 急に現実に引き戻される言葉に、私は苦笑する。

 菊、桔梗、萩、楓、秋の色を濃くした庭。

 そこに残る夏の気配。

 咲き誇る天上の青。

 その理由を知るのは、また後のこと。

 その名を記せしも、また後のこと。

 今そこにある現実が今の全てであると、私は素直に頷いた。




 加筆修正 2007.7.20







本当に天上の青と言う名の朝顔があることを知っていますか?

「珍しい朝顔の種を手に入れました“ヘヴンリー・ブルー”と言う種です。

朝早くでなくとも、花が楽しめる朝顔です」

いつも句を詠ってくれた知人が教えてくれた、青い朝顔。

ところが私ときたら「“ヘヴンリー・ブルー”?」その名を聞いた瞬間、

「天上の青」という曽野綾子さんの次々に殺人を

犯す青年を描いた小説を思い出してしまいました(苦笑)。

その時に興味があって種を分けてもらい、植えてのですが、

夏が来て、その花は上手く青にならず、とても悔しい思いをした朝顔です。

そしてどうでしょう、先日秋の昼下がりの遅出の通勤中、その花を見ました。

その瞬間、思わず息を飲みました。

青い色、群青でもなく、水色でもなく、まして藍などではない。

鮮やかな青い花が門柱の所からずっと赤く色付いた楓の木を伝って伸びているのです。

まさに“天上の青”。

花の形は紛れもなく朝顔。

でも、儚げなところは微塵もなく、秋の空に向かって凛と顔を上げていました。